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最近の趣味・プラモデルに手を出す

齢30過ぎにしてガンプラに手を出した。
ゲームやアニメ、漫画なんかはもう生活に密着しすぎてて趣味って感じではなく、
何と言うか息をするのと大差ない感覚でポケットに入っているのだ。

というわけで純粋な手先を使う楽しみ、娯楽のひとつとしてガンプラ製作。
しかも最近は世界最強の軍事企業・バンダイ様の秘められし陰謀により、
HGUCという低価格・高品質なナイスシリーズが出ているのだ。
主に一年戦争系のMSが主力ながらZ系もそこそこ、個人的にはハンマ・ハンマやズサ、
ドーベンウルフのようなZZ系の登場に期待するところながら、
ど素人が手を出してもそれなりに見栄えするのが近代技術の成果。
昔のガンプラが加藤か末堂さんなら今のガンプラは素で克己。

というわけで写真を一枚。

HGUCガブスレイ、初めて筆で色塗ったVer。
青く塗りたかったのに仕上げてみるとどー見てもティターンズです、本当に(以下略
次はハイザックベースでちょこまかとした改造に手を出してみようと思いつつも、
近所の模型屋のオヤジのえげつない価格設定に苦しむのだった。

今時定価販売&客の質問に答えない心の壁ATフィールドの脅威よ。


「水性ホビーカラーうすめ液あります?」
「・・・水で十分だよ」
「あ、そうですか・・・」

オッサンそんぐらい知ってますようすめ液が欲しかったんですよ普通に
模型屋のオッサンと俺との間に立ちはだかる謎のオレンジ六角形。

ATフィールド破れません。
破ったらフラグ立ちそうだから破らないけど。

では特にオチもなく終わり。

  # by suganumas | 2012-01-24 16:27 | 日々の雑記

日常SS・藤林くんと千歳さん 番外 『ゆるゆりノベルアンソロジー』

 ゆっるりっらっらゆるゆりゆっりらっらっら
 ひゅっるり~ひゅ~るり~らら~ ゆるゆり、ゆらら~……
 お~んなで~す~……

「途中から森昌子になってるぞお前」
「覚えられんのだ、どうしても」

 動画の中で踊りまわる可愛らしい少女たちを眺めながら、僕はそう言うしかなかった。
 三十路も近い女がコレを歌うのは色々きつい。とはいえ義理と人情を秤にかけりゃ、義理が重たいラノベ業界。ファンとして好きになった作品の歌曲を覚えて熱唱するのはもはや義務であり、それに従ってやるべきことをやらねばならない。

「……スーパー戦隊ならタイムレンジャー以外ほぼ歌えるんだが……」
「だからお前とカラオケ行くのやなんだよ。無駄に熱い曲ばっかだから」
「貴様こそ野太い声でアイマス歌ってばかりだろうが。太く重たい豚ボイスでよ~るの~ちゅうしゃじょ~で~♪ とか熱唱されても思い浮かぶ光景はオヤジ狩りしか無いぞ」
「愛があるから問題ねえんだよ。声の重さは愛の重さだ」

 ガチの眼で言い切った藤林に本気で寒いものを覚えつつ、僕はふたたび動画を眺める。
 この作品……『ゆるゆり』は大変に面白い。何が面白いってキャラクターの立ちっぷりと和やかな世界観がいい。キャラクター同士の人間関係がしっかりしているので、それら基本のカップリングを軸に、さらに互いを絡ませることによって世界が広がっていく。
 コメディとしても見事だし、何と言ってもすっきり読めて後味がいいのがいい。アレンジされたアニメもいいが原作はそれ以上に痒いところに手の届く、細かい描写がたまらない。
 最近、小説家というより座敷わらしか自宅警備員と化しつつあった僕のもとへやってきた執筆依頼により、この作品のアンソロジーノベルを書かせて頂いたのだが、大変面白い仕事ができたと思っている。人様のキャラクターを動かした経験は少ないが、それだけに得るものも大きかった。

「特に主人公がいいな。あかりちゃんの可愛さは半端ない。不遇なところもいいぞ」
「まあ、同類相憐れむ、と言うしな」
「……ホワイ?」

 訪ねた僕の前で、携帯をいじりながら藤林はちょいちょいと手招きをする。
 画面の中に映し出されたのは某超有名インターネットショップの書籍紹介ページ。



 ゆるゆり ノベルアンソロジー [新書]
 森田 季節、他 (著)



「よう。他」

 どや顔で言った豚を、僕は殴った。

おわり




著者注
 この作品はフィクションであり(以下略)です。石を投げないでください。
 というわけでゆるゆりノベルアンソロジーに寄稿させて頂きました。
 拙作ですがお楽しみ頂ければ幸いです。
 9/27発売、文庫サイズではなくコミックスと同サイズですので、
 お探しの際はお気をつけください。

 どぞ、宜しくー。

  # by suganumas | 2011-09-09 22:54 | 日記・藤林くんと千歳さん

口蹄疫パンデミック

モッツァレラ・チーズ。

美味しんぼで『水牛の乳からつくるチーズのこと』だと知った人はけっこういそうな気がします。
本場、南イタリアからそれを輸入、国産チーズを作っている牧場があったのですが、

http://www.caseificio.jp/kodawari/index.html


これが

http://www.caseificio.jp/cgi-bin/webpat/document/news/2010/042301/index.html

これ。



………うわあああああああああああああああああああああああああああ



ちょっとシャレになってない。
ただの一言に、すべてが収束されている。物凄い重みのあることば。
デビュー作がバイオネタだった私が言うのも何ですが、まじでとんでもない事態。


殺処分の家畜6万頭超す=宮崎の口蹄疫

 宮崎県は7日、同県川南町の8カ所の農場などで口蹄(こうてい)疫に感染した疑いのある豚と牛が新たに見つかったと発表した。県の発表によると、感染の疑いがある家畜が出た農場などは43カ所となり、殺処分の対象となる牛や豚の累計頭数は6万頭を超えた。(2010/05/08-01:15)

ソースURL
 http://www.jiji.com/jc/c?g=soc_30&k=2010050800029
(時事通信様)

最新と思われるニュースがこれなんですが、
口蹄疫について三行でまとめますと、

①空気感染、人、モノの移動で感染拡大、予防消毒には特別な薬品が必須
②治療は困難、感染しても死ねず、周囲にウィルスを拡大するため処分するしかない
③基本的に偶蹄類のみの病気

なんですが、人間死ななきゃいいってもんじゃありませんな普通に。
畜産農家が手塩にかけた成果が全部パア……ネットで拾った話ですが、
国産ブランド牛なんかは宮崎県にしか種牛がいない種もあるそうで……
興味をもたれた方はググってみるとよいかと。情報が錯綜していますが、
かなり地元ではとんでもない騒ぎになっているようです。

電撃hpで三作ほど短編を書かせていただきましたが、
その二作めでやっぱり空気感染ウイルスネタを書きました……
あの時は普通にネタにしてしまいましたが、現実で発生すると本気でやばい。
いわゆる感染爆発、パンデミックについてウィキペディアを見てみますと、

エンデミック(地域流行)
 流行性病原菌が発生するも、狭い地域に限定され、
 患者数も少なく、感染スピードも比較的遅い状態。

エピデミック(流行)
 感染範囲や患者数の規模が拡大したもの。
 比較的広い(国内~数カ国を含む)一定の範囲で、多くの患者が発生する。

パンデミック(汎発流行)
 さらに流行の規模が大きくなり、複数の国や地域に亘って(=世界的、汎発的に)、
 多くの患者が発生するもの。

と、このような分類がなされているようです。
一応現状ではエピデミックですが、韓国や香港で発生したウィルスと、
型が一致したとの情報もありますので、パンデミックと言っても差し支えない気が。


まとめもあったのでURL貼っておきますー。


【閲覧注意】口蹄疫に感染した牛の殺処分や感染後の写真資料いろいろ

 http://gigazine.net/index.php?/news/comments/20100507_kouteieki_matome/

(Gigazin様)

  # by suganumas | 2010-05-08 12:53 | 日々の雑記

日常SS・藤林くんと千歳さん 第四話 『サトリラレ』


「スルメ臭ぇよお前」
「それが客に対する言葉か貴様」

 無頼漢よろしく口の端っこにスルメをくわえ、僕は棚を眺めた。
 大きめの本屋にCDとDVD、さらにゲームも扱う総合チェーン店。その業務自体を批判するつもりは毛頭ないが、この店ができた事により、駅前にあった中古屋があえなく潰れた。
 その結果、僕は百円レンタルでベトコン祭りを開催するために延々二キロ歩くはめになり、市場経済と言う四角いジャングルに、今日も叫びがこだまする。脳に浮かんだベニー・ユキーデとミスターXを振り払い、僕はずらずら並んだゲームをざっと流し見た。

「大体何で単独行動してんだお前。相棒の豚はどうした」
「最近いいネタがないから奴は来ない。他の仕事もあるし」
「ハぁン?」

 うさんくさいアメリカ人みたいな返事に腹が立つ。
 足元に座り込んで棚の商品をいじる男は、長くて鋭い。
 贅肉がついていないから遠目の印象は細く見えるのに、近づけば中までゴムの詰まったパンク知らずのタイヤみたいに、パンパンに筋肉が張り詰めているのがわかる。棚のずれたゲームの箱を直す右手と左手は太さが違い、利き手の左がすこし目立つ。
 なのに、まだ二十代前半な男の、正体は。

「ただの筋トレと格闘技が趣味の書店員ってあたりが盛り上がりに欠けるな」
「何がだよ」
「だってお前、その体格で店員って宝の持ち腐れにも程があるだろう。ターミネーターの中の人が小学校で先生やる映画といい勝負だぞ。正体は刑事とかが定番だ」
「ありゃ幼稚園だ、キンタガートンだから。知らねえのか、最近はレジ係でも強盗に抵抗しねえと、駆けつけてきた正義の味方に指詰められんだぞ?」
「ここはゴッサムじゃない。日本だ、ばか」
 
 とりあえずお決まりの冗談を返して、僕はスルメを飲み込んだ。

「店内での飲食はご遠慮ください、他のお客様の迷惑になりますので……っつーか、まだ歩きタバコのが見かけるぞ。歩きスルメって人としてどうよ、昭和の子供か手前は」
「あんな煙たいもの誰が吸うか。だけど、あれは持ってるだけで格好がつくから羨ましい」
「まさかそれ格好つけてんのか。つけてるつもりだったのか。歩きスルメで」
「正直それもある。まあ単純に昼ごはんを食べていないせいでもあるけども」

 黒い帽子をちょいと上げて僕がそう言うと、彼は淀みない動作で立ち上がった。
 ちょうど、頭のあたりに肩がくる。高い位置から見下ろしつつ、

「作家ってのはそこまでヒマなもんなのか?」
「最近は特に。さっきも言ったがネタがうまくない。企画にすらならんセルフボツばかりだ。思いつかないわけじゃないが、本人は捻ったつもりでも中身はまるでなってなくてな」

 スランプに陥ってからもう何ヶ月になるだろう。
 その間、時間は驚くほど早く過ぎていく。安逸に、怠惰に、情け容赦なく過ぎていく。
 何かをしなければならない時に限っては辛く厳しく過ぎるのに、離れた途端に錆びて、何も辛いことも苦しいこともありはしないのに、僕をゆっくりと腐らせるのだ。
 何を描けば面白いのか、何を描けば売れるのか、何を描けばいいのか。
 わからなくなっても、世界は優しい。誰も僕を責めず、誰も僕を叱らず、僕自身以外誰も、僕を見張ろうとはしない。力を失い、一文字も書けなくなったとしても、気づかない。

「……自分以外の、誰にもね」

 誰も責めてはくれないのだから、自分で自分を責めるしかない。
 萎えそうになる自分に鞭をくれ、人参をぶら下げて走らせるのだ。
 やるべき締め切りが無くなってからというもの、ずっとそうしてきたつもりだが。

「そういえば知ってるかい、友よ」
「営業時間中は客であって友じゃねえ。で、何が」
「僕には個性がないらしいんだ」

 そう言ったとき、彼の眉がぴょこんと持ち上がり、坊主頭に皺が寄るのが見えた。
 表情に見覚えがある。居酒屋でフグだと偽ってタラ鍋を食わせたときの顔である。何から文句を言ってやろうかと一瞬迷って言葉が出ない、そんな感じのしかめ面。
 だけど、一応冗談のつもりはないのだ。

「ちょっとネットを見渡すだけでも、プロアマを問わずに物凄い数の人がいて、僕にはとても及ばない知識や技術を隠してる。それを使った数々の作品はどうしようもない個性があって、お前の作品にはそれがない。骨の抜けた凧みたいに、ふやけて風に浮いてるだけだ、って」

 知識が足りない。経験が足りない。何もかもが足りない。
 いくら本を読んでも、映画を観ても、埋めることのできない圧倒的な情報量の差だ。僕自身の作品を輝かせる軸となるもの、作風とでも言うべきもの。それを見出せていない今、いくら頭を絞っても、出てくるものは出がらしみたいな駄作のプランだけだった。
 
 僕は指を唇に当てる。
 するめがない今、握り拳の人差し指。短く縮んだ第三関節を噛む。
 苛立つたびにそうするから、その部分だけ分厚いたこができていた。
 歯のかたちに跡が残る指にかすかな痛みを覚えながら、今の自分を表すひとことを、口にした。

「―――己が何者かを、見出せておれば」
「パクリじゃねえかよそれも!?」

 超速で突っ込まれた。
 いや、そーなのだけれども。

「今の心境を表すのにこれ以上ピッタリくる言葉もないと思ったんだよ。見逃せ」
「ゲヒ殿気取ってたって何もいいこたねえぞ。だいたいそれほど偉かねーだろが」
「そうだけどさ。何をどうしたら面白いのか、何をどう描けばかっこいいのか、何がどう……って、考えても考えても出てこなくてね。己の数奇が何だったのか、わかんなくなって」

 付け焼刃の勉強をしてみた。
 資料を買い漁って読んでもみた。
 最近の流行を知ろうとして、売れ筋のゲームをやってみた。
 普段は行かない映画を見て、普段は食べないものを食べ、行かないところへ行った。

 傍から見てると遊んでるだけ、と言うかそのものだが、ちょっと違う。
 楽しくはないからだ。むしろ痛かった。苦しみを先送りにし、痛みを感じないようにして、ただ誤魔化しながら延命しただけだ。立ち向かうべき問題が何かすら判らずに、目的を見失っていた。
 前に進むどころか、足を止めてぐずぐず泣いていただけだから。

「だからってベトコン祭りを開催すっこともねえだろ。迷走しすぎだろ。何が勉強だよ」
「『プラトーン』から始まって『ディア・ハンター』まで七本くらいだぞ。むしろ足りない」
「よく判んねぇけど、ライトノベルってのはベトナム戦争と何か関係あんのか」
「綺麗サッパリ無いな。強いて言うなら魔法の海兵隊員くらいだと思うがあれマンガだし」

 はあ、と彼はちいさく息を吐いた。
 有線放送が響く店内には、見事なまでに誰もいない。外は記録的な豪雨とかで、バスタブをひっくり返したように、雨と言うよりほとんど滝に近い勢いで水が降り注いでいる。
 ――××ネット、商品紹介です、シーユー!
 演技どころか素で傘差したレポーターが吹っ飛びそうな音で鳴る風に、商品解説が負けじと空気を読まずに叫びを返す。うらぶれた地方都市に相応しい零落っぷりの中、彼は言った。

「サンドバック喫茶って知ってるか?」
「何だそのロックな店舗は」

 咄嗟に頭に浮かんだのは丹下ジム。汚い板張りのボクシング・ジム風の店内に、巨大なサンドバックがぶら下がり、客はコーヒーや紅茶を嗜みながら思う存分ぶん殴る。
 ウェイトレスは当然メイドどころか段平である。無論、ドッジではないほうの。
 ハゲで眼帯に鼠出っ歯がスタンダードだ。それだけでは少々寂しいのでアイアン・マイケルから堀口元気、男な塾の元米兵からギャラクティカマグナムまで揃えておくと、たぶんみんな大喜び。
 ワンドリンクで三十分叩き放題、千円からくらいなら案外いける。きっと。

「……それ、実在するのかね。場所どこだ、電車で行ける?」
「行けるわけねえだろ。前読んだ小説に書いてあったんだよ、そんなのがさ。それにこの場合重要なのは喫茶じゃねえ、サンドバッグの方だ」
「何だ、中に札束でもぎっしり詰めてあるのか? 蹴り心地が最高だと聞いたが」
「殺し屋イチの話はしてねえよ。サンドバックを夢中で叩いてると、あるんだよ、突然」

 冗談ではなく、彼はどこか面倒くさそうに言った。

「叩き方を忘れちまうってことが、さ」
「……いや、ただぶら下がってるのを拳で叩くだけだろ、アレ」
「どんなもんでもそうだが、簡単に見えて実は正しいやり方ってのがちゃんとあんだよ。身体で覚えてることのはずなのに、突然ころっと忘れちまう、自信が無くなるってことがある」

 そういうものだろうか?
 運動に縁がない生活をしている身では真偽はわからないが、物忘れなら僕も多少自信がある。
 宿題や持ち物の忘れっぷりから酷いときには次話すはずだった話題をころっと忘れたり、人は意外とびっくりするようなものを忘れる事がある。そうしたことも、あるのだろう。

「そういう時、どうすりゃいいのか知ってるか?」

 僕の答えを待たず、彼の拳が空を打つ。
 それは確かに「ただ叩くだけ」などと言うものではなかった。何百回、何千回と繰り返した動作、機械のように正確な型の決まった動きである事が、素人目でも理解できる。

「叩くんだよ、思いっきり」

 ものすごく単純だから、

「何をどうすりゃいいとか、前はどうだとか考えずに、とにかく全力でぶち込むんだ」

 僕はそれがいいと思った。
 不器用な比喩が、妙に当てはまる気がする。

 喜んでもらえるもの。売れるもの。面白いもの。そんなものを創りたくて、書きたいけど、それを狙ったものが形になるほど甘くはない。間違えているのが、自分でもわかるから。
 力を入れたつもりでも、それは間違えているだけだ。
 エゴを排除して誰かに、顔の見えない誰かに媚びたものを創ろうとしても意味はない。
 それを喜ぶ人は誰もいない。僕自身でさえも、そんなものは望んでいない。個性を求めて、知識を求めて悪あがきしても、それは違う。何かを書きたいから知識を求めるのではなくて、その何かがわからないのに、でたらめに知識を漁ったとしても、そんなのはだめだ。

 力いっぱい打ち込むこと。
 売れなくてもつまらなくても流行ってなくても、とにかくやってみるべきだと。

「……ああ」

 エゴを抑えることを考えていた。
 薄めて捨てて、むしろ自分の個性を捨てて、誰かの真似をしようとしていた。
 そんなものが面白いはずない。わけがない。

 無駄な努力をしたっていい。
 それだけが、きっと、ただひとつの道だということを。
 今まで歩いてきたものだということを。

 思い出したから、

「僕、帰る」
「買ってくんじゃねえのか、客」
「それどこじゃなくなった。……前、ボツになったけど、書きたかった奴があるんだよ」
「やるのか」

 やる。

 言わずに思って、僕はふと思い出した。
 片手にぶら下げたままのDVD、レンタルで借りたベトコン祭りのあとを返却せねば。

「今日までだった、期限。これだけは返しておかないと来た意味ないな」
「……今日って、お前、うちは最長でも一週間だぞ。前来たのそれより前じゃねえか?」
「え?」

 何気ない言葉に血の気が引いた。
 慌てて荷物を探り、青い返却バッグの中からレシートを出す。
 返却期限は、月曜日で。

 今日、は――

「セール商品は一週間レンタル百円、ただし延滞は通常通り、一日三百円」
「今日、水曜だから……かける七の、二日………」

 想像したくもない結論に達して、僕の頭が固まった。
 

「四千二百円のお支払いです」
「………はい」

 五千円札を手に取り、完璧な営業スマイルで男はお釣りを取り出した。


おわり



第一話『あにめか!』
第二話『ちょっと痩せた?』
第三話『スルメスメル』
第四話『サトリラレ』

  # by suganumas | 2009-10-24 08:25 | 日記・藤林くんと千歳さん

日常SS・藤林くんと千歳さん 第三話 『スルメスメル』


 僕は〝噛む〟ということが好きだ。
 それを自覚したのは子供の頃、いつだったか具体的な日時はわからないし特に重要でもない。
 大事なのは、ガキの頃の僕は鉛筆の尻やらネ×ロスの要塞のおまけフィギュアのぐにぐにっとしたゴムを犬歯でかじるのが大好きで、筆箱の中は歯型だらけだったということだ。
 鉛筆をかじるときにはコツが要る。表面の硬く噛み心地のよい木材は犬歯のエナメル質が触れると、たやすくふにっと凹む。じりじりと圧力をかけていきながら決して芯の黒鉛を、あのガリガリして粉っぽく味がないアイツを折らないように、そっと穴を掘ってゆくのだ。
 今もたぶんスリランカで黒鉛を掘っているであろうボディマヤ・ハッタヤさんには悪いが、僕は鉛筆は好きだが芯は嫌いだ。だって硬い。あとすぐ折れる。柔らかく潰れてくれないことには噛み心地が悪く、幼い乳歯の奥に感じるうずくような痒みを紛らわすことはできない。

 がりっ

 そう、この感触だ。
 六角柱状の鉛筆、その六つの面にひとつずつ。

 がりっ。

 何度も続けていくと、穴は互いに繋がってデコボコになり、塗料はひび割れ砕けてゆく。
 こうなっては終わりだ。噛み終ったガムのように醜い姿を晒したまま、じっとノートに算数やら国語やら社会やらタヌキの捕まえ方やらを写したり妄想したりする以外何もできない。
 何故こんなことをするのか、自分でもよくわからない。

「美味いのか?」

 そう聞いてくる奴にはこう答える。割り箸にペンキを塗って食ってみろ、と。だいたい同じだ。グルタミン酸もイノシン酸も含まれていない木材にうまみ成分などあるものか。まずい。
 ならば、何故噛むのか? かゆいのだ。何故かわからないが。歯茎の奥、根元あたりに何か固いしこりのようなものがあり、その先っぽから骨の髄あたりにコリッとしたかゆみがある。
 ミクロ化して体内に入り思う存分掻きたいところだが生憎知り合いにスタンド使いはいない。
 となれば結論はひとつ、何かを噛むしかない。そうすると圧力で押された歯根は歯茎の奥へとそれを伝え、わずかながらかゆみを忘れさせてくれる。
 とはいえ僕はもうガキではない。いつまでもマンモーニではいられない。
 ママッ子のままだとアレだ、たぶん、モテない。きっと。大人は鉛筆に歯型をつけるかわりに、もっと洒落て、カッコよくスタイリッシュかつ都会的な方法を選択する。
 筆箱の中に必ず入っており噛んでも減らない鉛筆の代わりに、代償としていくらかのお金を支払うことによって、大人はカッコつけることができる。なんてこった。僕はいつのまにか、子供の頃の純粋さを忘れちまっていたのだろうか。何でも金か? 金で解決か畜生め。
 ヴァイか。歩く身代金なのか。八十年代はともかくこの現代でヴァイヴァイ言って許されるのは765プロ所属のアイドルであり、頭蓋骨が変形した成金小学生ではないのに。

 というわけで都会に生きるスタイリッシュな大人として、僕はある方法をとる。
 ダイヤの奥歯とか耳の穴に砂金とか涙腺に真珠とかの極めてパンキッシュな方法ではない。と言うか今思うとアレってかなりのレベルで人体改造入っていたよな半端ねえ。きっと彼が成長した暁には、殺し屋イチとかに出てきたマゾヤクザ垣原さんと友だちんこだったろう。

 僕はそっと垣原さんを偲びつつ、ビニールの封を切る。
 濃厚な香りが鼻をつく。さすが上物だ。1メートル……いや、2メートル離れても判るだろう、この香り。敏感な飼い猫がぴくりと身を起こしニャアニャア鳴きながらズボンを引っ掻く。

 いいか、これはお前の餌じゃない。
 違うんだ。 ――わかれ。

 お前にはこれを決して与えられない。だってお腹壊しちゃうから。
 消化不良をもいとわぬ益荒男ぶりを見せる飼い猫をスルーし、僕はそれをオーブントースターに入れて三分。じりじり音を立てながら中が暖まり、チリチリ鳴きながらそれは中で丸まっていく。

 絨毯のように、ぐるぐると。
 かのクレオパトラがシーザーのもとを訪れたときのように、それはくるりと丸くなり。
 キッチンバサミを用いてバリバリと硬いのを板状に切り裂いてやれば、若干磯のスメルこそ漂うものの、これは鉛筆の木すら上回る第一級の噛み心地となる。マヨネーズとかマジ外道。スルメはスルメであるからこそ美味しいのであってあんな卵黄と油の混合物など論外。
 手を伸ばす猫を牽制しつつ席に戻ると、

「それで、いい若いもんのスタイリッシュなオヤツがスルメってどうなのだ」
「うるさい、わかれ」

 余計な口を挟む藤林を抑え、僕は焼きあがったスルメを犬歯にくわえた。


第一話『あにめか!』
第二話『ちょっと痩せた?』
第三話『スルメスメル』
第四話『サトリラレ』

  # by suganumas | 2009-08-13 21:52 | 日記・藤林くんと千歳さん

日常SS・藤林くんと千歳さん 第二話 『ちょっと痩せた?』


「ウルヴァリンがアニメになるぞ」
「………」

 唐突にふざけたことを口にした豚男を、僕はかわいそうだと思った。
 長雨が続くアパートの一室。雨が入ってくるのは嫌だが、閉め切っているとパソコンが熱で嫌な音を立てるため、カーテンを閉めて窓を全開にした六畳間で、藤林は座っている。
 いつもながら僕のベッドの上に。どうでもいいが中年に近付いた男が膝丈半ズボンで座ったさまは非常に見苦しいと思うのだが、ファッションセンス皆無の奴はまるで気にしていない。

「何だ貴様、その閉店セール中の洋服屋を見るような面は」
「だってお前が妙なことを言うからだ。情報が十数年は遅い、ウルヴァリンなら」

 無知な男に教えてやるべく、僕はマウスを手に取った。

 ――X-Menとは、悪の脅威から人類を守り、
    人類とミュータントの平和的共存を実現するために結成された、
    ミュータントヒーローチームである!

「ショーーーーーーーーーーーック!」

 とりあえず叫んでみる。ああ、あいかわらずX-MENはいい。。
 OP以外作画が全部海外で微妙におっさんくさいが、かっこいい。
 合間のCMで必ずアニメコミックの宣伝が入り、「本屋さんに急がなくっちゃ!」とかローグに言わせてた黒歴史が即頭に浮かぶが、それはそれでいい。
 本編のビーストさんは地面ぶん殴って地割れどころか超賢いゴリラ的な扱いだとか、ロクに出番ない割にムダに目立ってる未来兵士とか、実写の映画版で瞬時に蒸発させられた光線出っ放しスコットとか、その鬼嫁とか、黄色と黒の横恋慕とか。実に懐かしく素敵ではないか。

「嘘で固めたナイフ切りつけんでいいから黙れ」
「何を言う。ウルヴァリン、アニメといえばこれ以外なかろう」
「明らかに違う。っつーか放映開始第一話か二話あたりで即仲間を見捨てて撤退したあげく、それがきっかけでグレた仲間に復讐されるヒーローチームってどうなのだ」
「細かいことを気にする奴だな、アメリカだぞ。ラクーンだぞ、リバティだぞ、ゴッサムだぞ? ゾンビとか悪とか怪人とか色々はびこる世界で戦うヒーローともなれば、多少の外道は許されるだろう」
「どっちもどっちではないかソレでは」

 まるで違うと言うに。

「目的と志が違うから問題ない。ソロモンに核攻撃するオールバックとか、法的根拠もなしに独自の基準で犯罪を撲滅する特捜ロボとか、冷静に考えると明らかにダメだが、基本的に相手が悪い奴だから視聴者は感動する。だからあれだ、コロニー落とそうがソーラレイ撃とうが核バズーカを大量生産しようが、相手が悪なら何の問題もないのだ」
「お前、ギレンの野望でエウーゴに両方思い切り使ってたではないか」
「正直アクシズ止めなくても地球はとっくに滅びてると思う」

 そもそも敬愛する平野先生がいけないのだ。あんなに面白そうに紹介されたら、もうやらずにはいられない。眉なしソリコミハゲの世界征服物語にあんなに熱中できるとは意外や意外。

「と言うかあのゲームにおける本筋がいまいちわからん。ジオンが天下獲ったあとで何ゆえにソロモンをティターンズの万年水中メガネとリーゼント老人にくれてやらねばならんのだ」
「講和の条件がそんなだったんではないか?」
「納得いかん。地球全土を制服したあげく本拠地にコロニー叩き込んで何故にそこまで強気な講和が結べるのだ。ジオンの外務大臣は小西行長あたりなのか」
「何故そこで安土桃山時代が出てくる。おっかねえな」
「それ以外にもハマーンがいきなり叛乱起こすのも不自然だろう。ミネバたんはいつ家出したのだ。岩石アゴ親父はきちんと我がジオンでドワッジ乗り回してると言うのに」
「未成年者略取だろう。もしくは家出少女のささやかな反抗」
「地球規模でスイーツとはさすがザビ家だ。スケール地球圏か」
「当然だ。敗戦後はアステロイドでロリコンと出会いつつイデオンとか発掘するしな。無限力だ」
「みんなきらいだ、特にお前は」
「わざわざコンタクト外して言うな。人類の眼球にハイライトは入っておらん」

 瞳の照りが消えたら怖いって表現を最初に考えた人は誰なのだろう。
 昨今「レイプ目」などの名で市民権を得た感のあるものではあるが、個人的には秀逸だと思う。
 何といっても見れば一発でヤバさがわかる。リアルでもたまに勧誘のお兄さんやお姉さんがそれっぽい状態になっていることがままあるが、わかりやすくてよい。

「ところで、ウルヴァリンのアニメとはどういうことだ」
「唐突に話が戻ったな」

 急激な話題転換についていけなかったのか、藤林はすこし考えてから続けた。

「何かわからんがマッドハウスが協力して新アニメを作るそうだ。主役はウルヴァリンで」
「さすがアメリカ、気合が入っているな。今のご時世に中年モジャ毛親父が主人公とは」
「いや、それが今回は若いのだ。ピチピチだ」
「それはいつもだろう。黄色と黒でピチピチだ」
「戦闘タイツの話はしておらん。そもそも着てないしなアレ」
「……何てことを!」
 
 アメリカ人は自国のアイデンティティを捨てたのか!
 ヒーローといえば、股間モリモリの戦闘タイツ。現代の傾き者とも言うべきアレを自ら捨てるとは!

「納得いかん。とても納得いかんぞ」
「そうなのか」
「他人事のような顔だな藤林。お前とて、綾波がニプレスつけてたら嫌ではないか?」
「……それは確かに嫌かも知れんが。というか誰に教わったのだろうと疑問で眠れなくなるが」
「マジで納得されてしまった……」

 冗談で言ったのに。
 僕は仕切りなおすべく、もう一度言った。

「で、下っぱスーツを脱いだウルヴァリンが何だと言うのだ」
「あれは下っぱスーツでいいのか? もうちょっと戦闘的なアレだと思うが」
「戦場に放り込んであとは戦え的な扱いだし、エグゼビア教授的にはそんなもんでいいと思うが」
「意外と腹黒いな、教授」
「若い者が見たら性格の悪いやらない夫にしか見えそうにないからな。縦に長いし」
「お前の考える若者層は相当なレベルで偏っているとは思うが、それはまあどうでもいい。確か某動画サイトに予告編が出ていたから、それを観れば良かろう」
「ふむ」

 百聞は一見にしかず。見ればわかるさ納得するさ。
 僕は再びマウスを手にし、リピート再生を続けていたOPを停止。動画サイトを検索して、目的の動画を見つけ、再生する。何となく赤いウインドウに、それが映って――





 ――
 ――――
 ――――――。


「………ナルミ、ちょっと痩せたな」
「からくりサーカスは関係ない」


 僕の素直な感想に、藤林は疲れたようにそう言った。


おわり


第一話『あにめか!』
第二話『ちょっと痩せた?』
第三話『スルメスメル』
第四話『サトリラレ』

  # by suganumas | 2009-07-28 21:07 | 日記・藤林くんと千歳さん

連絡事項

新刊出して以来ずっと放置だったことに今気付きました。やばい。
というわけで日記SS・藤林くんと千歳さん、はじめました。
適当に日記と言うか日常で気付いたこととかを代弁していただく感じの日記もどき掌編連作です。
更新はネタを思いついたとき。不定期ですがおヒマありましたらどぞー。

ちなみにコレはニコニコ動画で動画を作成なさっておられました

エイの姿煮

様のランキング動画に投稿したものの再利用だったりします。

エイの姿煮様は先日最終回を迎えてしまいました。残念無念。
保健所様のフラッシュコンテンツはいつもながら楽しく、キャラ立ち、台詞回しが秀逸。
最終回ということであちらでお使いになる機会はなさそうだなー、ということで、
妙に気に入ったのでレギュラー化。適当にちまちまと書いていこうかと。


あとリンク追加しました。

るなてぃな
 タイム・スコップ! の挿絵を頂きました玉岡かがり先生のサイトです。
 連載中の「ぼくの生徒はヴァンパイア」おすすめです。メイベルさん素敵。

緑陰の館
 同郷の士・電撃文庫作家の有澤翔さんのサイトです。
 偶然お会いする機会があって以来色々おつきあい頂いとります。
 おかげで読書の幅が広がりました。あとカラオケのレパートリーが増えました。あと(以下略)

100光年の遠まわり
 同じく電撃文庫作家の三木遊泳さんのブログです。
 実はさりげにタイム・スコップ!を紹介していただいたりさんざお世話になってましたが、
 その御恩に報いるのが半年たってからという菅沼の鈍牛っぷりがいたたまれません。
 亀ちゃんが火炙りになっちまうよ!(鬼平)

 ではではー。

  # by suganumas | 2009-07-25 11:55 | 日々の雑記

日常SS・藤林くんと千歳さん 第一話 『あにめか!』

<前記>
 この作品は一から十までフィクションです。
 基本的に日常の徒然を書き留めた日記ではありますが、
 多分に嘘・大袈裟・紛らわしい表現が含まれておりますので、
 ご精読の折は眉唾でお願い致します。

 某所に投稿させて頂いたブツの再利用だったりしますが、
 万一気付かれましたらスルー願えれば幸いです。



 人として生まれたからには、誰しもアニメ化を目指さなくてはならない。
 誰が決めたのか判らないが、それは世界の常識というものだ。たとえ地球人類が今すぐ全員ゴリラになったとしても、二十一世紀くらい歴史を重ねていけば、ちょっと毛深くなった人類は同じようにアニメ化を目指し、ラフを描き、プロットを立て、ラノベを書き、何かしら適当に作っているであろう。
 ひょっとすると可視光線の関係上僕には見えないアニメだったり、よりトンボ的な眼球をしていなければ認識できなかったりするかもしれないが、それが常識だ。
 だが幸いにも今僕らがやらなければいけないアニメ化はごくふつうのアニメ化だ。
 一万個の目玉で同時に見ないかぎりパラパラ動いてくれないような面倒臭い代物ではなく、パラパラと、時にはヌルヌルと、さらに時にはヤシガニ的になる、そんな感じのものでよい。

「良かったよなぁ」
「何がだ」
「だってお前、複眼専用アニメはとても大変だぞ。本郷猛でもない限り観られない」
「そうだな。だが、俺の知る限り本郷猛は複眼ではないはずだが」
「……あれ?」

 僕は首を捻り、部屋のベッドに座っている男に顔を向けた。
 彼は火をつけない煙草に噛みつきながら、派手にかかとをピストン運動させている。激しい
貧乏揺すりにギシギシとベッドが軋み、僕はむうと小さく唸った。

「誘ってんのか? あぁん? 誘ってんのか?」
「何がだ」
「ひとりベッドを軋ませたりして、いやらしい」
「お前の発想がいやらしいよ」

 彼こと僕の悪友の藤林は、ついにごろりと横になってしまった。
 僕は睨んでいたディスプレイから目を離し、一時停止ボタンをクリックして再生を止める。

「だいたいお前は何故僕のベッドに座っているのだ? そこは眠るところであって決して座るところではないし、おっさん臭いスラックスの大股開きなど公害以外の何者でもないぞ」
「俺がここに座っているのは、お前の部屋に椅子がひとつしかないからだ」
「なんと」

 あまりにも簡潔かつ明瞭な答えに、僕はその点について完全に納得した。
 彼を疑った自分の心を恥じたい。いやらしいと思う心こそがいやらしい、つまり。

「つまり、けっこう仮面だな」
「……何が言いたいんだお前は?」
「聞け。貴様も知っているだろう、けっこう仮面。よく適当なヌルい感じの特集番組、アニメフェスティバルとかカニバリズムとかで再生されているだろう」
「とりあえず人肉は喰わないと思うが見覚えはあるな。覆面以外全裸のヒーローだろう」
「乳首はついていなかったな。まあそれはさておきこの場合問題なのは乳首ではない。全裸で悪と戦うヒーロー……いや、ヒロインか? まあどっちでもいいや。とにかく全裸だ」
「確かマンガ版だと乳首も描いてあったような気がする。よく覚えていないが」
「今度貸せ。まあそれはともかく、あの豪快な全裸っぷりを思い出せ。あれだけ見事な全裸はなかなかないぞ。普通あそこまではできん、たとえ悪と戦うためであってもだ。何故か」

 僕はけっこう真面目に問いかけたつもりだったが、藤林は僕のそば殻枕を引っ張り寄せると、汗でじわっと染みの浮いた脇を挟むように乗せてから、短く答えてきた。

「セクシーコマンドーだろう」
「何げに本当っぽいな」

 僕は思わず納得しかけた。

「うむ、セクシーだからな。しかも戦っている。呪文を使っている様子はないから、きっと常に「たたかう」を選択しているのだろう。コマンド的にも問題ない」
「だがこの場合ソレはあまり関係ない。僕が言いたいのはもっとメンタル的なことだ。崇高な悪と戦う使命を帯びたヒロインは、たとえ全裸でも恥ずかしくない。もし我々が同種のことをしでかしたなら、間違いなく逮捕されて地上デジタル放送に致命傷を与えかねないというのに」
「お前が逮捕されてもぞんざいなシカがお茶の間に出現することはありえんと思うが」
「地デジマとかどうだろう。シーボルトとか居そうだ」
「お前適当なこと言ってるだけだろう」
「うん。……だがそれは関係ない、つまりけっこう仮面は正義だが、大股おっぴろげジャンプで倒されるサタンの足の爪どもは悪だ。正義のためにあえて己を犠牲にして全裸となる彼女に卑猥な目を向ける連中は、どう考えても悪だろう。故に、いやらしいのはいけないのだ」
「痴漢冤罪の被害者を連想する。陪審員制度が導入された暁には判決が覆る可能性は高いぞ」
「まあ全裸だしな。だが、僕は今学んだぞ。主にけっこう仮面とお前のヒザから」
「勝手に学ぶな。警察を呼ぶぞ」

 僕たちはずっと部屋にいる。
 少なくともこの一週間、同じ部屋からトイレと風呂以外で外出したことはない。 
 基本的に家から出たくない僕はまんざらでもなかったが、藤林は三日でシャツの襟を黄色くし、四日目で髭を剃るのをやめ、五日目でコンビニ弁当の割り箸をカッターで尖らせ始めた。
 僕はてっきり麻薬王にコカインでも盛られたのだろうと思い、時々とがり箸で僕をシュッ、シュと突く真似をする彼をなるべく見ないことにした。
 普段はのべっとした目つきの男なのに、その時だけ口や瞳が省略された感じになる。眼球が妙に広がって、ほとんど鮫である。フジバヤシ・ザ・シャークと密かに命名してもいい。

「つまり、アニメ化だ」
「ピグマリオか」
「とても残念ながら和田先生は関係ない。人間として必ず目指すべき命題だ」
「それがアニメ化なのか?」

 罰当たりなことに藤林は疑問を投げかけた。

「そうだ。現代日本にアニメが与える影響は大きい。むしろ日本人はこのまま進化し続ければアニメを観ることで栄養補給ができるようになるかもしれんとさえ思う。とてつもなく便利だ」
「何を言う。今のご時世、テレビなど見ていては馬鹿にされるぞ」
「テレビを観るのではない、僕が観るのはアニメだ」
「テレビに映るのはアニメかも知れんが、アニメを映すのはテレビだろう」
「いや今は液晶とかプラズマとかライトニングとかあるだろう」
「万能なるマナでアニメまで観れるとは思わなかった。侮れんな」
「古代語魔法だからな。カッコいいぞ」

 言い切っては見たものの、僕らは首を捻った。
 なんとなく間違ってる気がするが、何が間違っているのかわからない。
 しかし些細な問題なので、話を続けることにした。

「近い将来、僕たちはアニメ化されなくてはならない。幸い条件は整っている。あとは製作会社、出版社、もしくはメディアミックス的なアレからのオファーを待つばかりだ」
「俺は知らなかったが、条件って整ってたのか」
「うむ。僕もたった今気がついたんだが」
「だが待て、アニメ化されるとなると色々とアレだろう。大丈夫か」
「アレとは何だ」
「だって最低限ビームくらいは出せなきゃいかんだろうアニメ的に。画面映えする技とかないと、いくら画面に出ていても出番が減り、しまいにはスタッフロールの三番目に寄り切られかねん」
「お前の心配はよくわかる。だがビームの必要はない。ついでに言えばロボットに乗る予定もないし、OSを書き換えたりもしないから勉強とかする必要もない。超能力に目覚める必要もないし、特訓を受けて拳法とか覚えるとかもいらないのだ」
「そうなのか。俺はてっきり悪と戦うのかと。だが、いくら何でも全裸は寒いぞ」
「セクシーコマンドーもいらん。必要なものはすでに揃っている」
「お前、まさか恋人でもできたのか」
「ここ一週間で、僕と会話した人類は現実ではお前だけだ藤林。というか、何故そうなる」
「だってバトル展開がない以上、アニメ的においしい展開といえばあとはラブコメぐらいだ。自慢ではないが俺には可愛い女の子の知り合いなどおらんから、お前が主人公かと」
「じゃあ貴様は何なのだ」
「君島的なポジションでいい」
「死んじゃうではないか」

 あ、と藤林は短く言った。
 僕は察しの悪い相棒に説明するため、リラックスした雰囲気を作りながら続ける。

「バトルもラブコメもいらん。さっきも言った通り、我々はアニメ化される条件をすでに満たしているのだ。あとはオファーさえ来れば何の問題もなく大金が得られる」
「まさか」
「昨今流行りはじめたアニメの中には、バトルがない、ロボットも出ない、それどころか恋愛さえ存在しない、というジャンルのものがある。これなら僕らも余裕だ」
「馬鹿な。バトルがなくては視聴者が飽きる、ロボットが出なければスポンサーが逃げる、恋愛が無ければオタクが見切るぞ。実例は俺だから間違いない」
「そんなことはないさ。僕たちがアニメ化されるジャンルは、ぬるい日常コメディなのだ」
「何だそれは。ぬるいって、何と比較してぬるいのだ。ガンダムファイトか」
「比較対象が爆熱すぎる。……そうだな、たとえを出して説明しよう。学校があると思え」
「うむ、思った。ちなみに小学校だ」
「……ちょっと倫理的にまずいが、まあ許容範囲内だ。で、その学校にはとりたてて特殊な力などは持っていないが、個性的なメンバーが集まっているとする」
「うむ」
「そうした人々の日常生活、例えば何の変哲もないチャンネル争いとか殴り合いとかフクロモモンガとかを淡々と描き続ける。これが日常コメディだ」
「……それでいいのか?」
「いい。何も特別なものなど必要ない。視聴者は今や刺激満点のバトルや、結局主人公とヒロインがくっつくラブコメなど求めてはいないのだ。可愛らしいキャラがキャッキャウフフとか言いながら延々とじゃれ合っていれば問題ない。マンガ化され、書籍化され、ライトノベル化されたあげく、超解とか謎本とか五十の秘密とかが無許可で出版される」
「許可はとったほうがいいと思うが凄いな」

 僕のもたらした説得力に関心したのか、藤林はベッドの上であごをなでた。
 短いヒゲが鳴る音が耳に届き、いつのまにか唇のそばにできていたニキビが揺れた。きもい。

「なあ」
「何だ。お前も寝てばかりいないで、早く何か適当な決め台詞でも考えろ。なるべくなら気の抜ける感じで唐突なのがいい。ちんぴろすぽーん」
「もう試している上にパクリではないかそれは。一文字だけ変えても無駄だ」
「わちんこ?」
「逆文字で言われても聞く分にはわからん。というか、ダメだろうこの企画」
「そんなばかな。理由を言え、君島」
「藤林だ。だって俺たち、学校行ってないではないか」
「日常生活を描けばいいのだから別によかろう。先例もないわけではないし、アパートの一室で延々とひきこもり続けていたとしても、そこにほのぼのとした日常があれば」
「そこだ。ほのぼのとした日常と言われても毎日食って寝て遊んでいるだけだぞ。むしろ一日に費やす時間の七割はドワンゴに捧げている俺たちに、そんなものがあるのか」
「くすっと笑えるトークがあれば問題ない。それこそがぬるい日常というものだ」
「可愛らしいキャラと言ったが、俺がまず可愛くないぞ」
「気にするな。幸いにも今のアニメはほとんどがCGで作られている」
「つまり俺たちもCGで作られていなければならぬのではないか」
「え」

 藤林の思わぬ言葉に、僕は腕を組み、しばらく考えた。

「僕らは肉でできている」
「哺乳類だからな。せめて甲殻類なら近いと思うんだが。キチン質だし」
「中の人と考えれば問題ないと思わないか? 僕たちが可愛らしいキャラを演じればいい」
「声優になったほうが早いぞ」

 いいアイディアだと思ったのだが、企画段階に大きなミスがあったらしい。
 まさかこの人体そのものが障害だったとは思わなかったが、さりとて死ぬわけにもいかぬ。

「僕が間違っていた。……簡単にはいかんな、アニメ化は」
「代償なしで手に入るものに価値などない。それが一番だ。それより何故突然アニメ化なのだ」
「いや、したいから」
「そうか。……まあ、お前は大丈夫かも知れないが」
「ん?」
「何でもない。早く原稿書けよ、いいかげんに」

 ディスプレイに向けていた顔を戻してみると、藤林は図々しくも僕のベッドの上で、
 布団に顔を突っ込んで息絶えたように動かなかった。

 うら若き乙女の布団に何をするのだこの豚め。

「やはり働くしかないか」

 僕は呻き、ディスプレイに映っていた動画を閉じて、ライトノベルを書く仕事に戻るのだった。


第一話 END

たぶん続く。


第一話『あにめか!』
第二話『ちょっと痩せた?』
第三話『スルメスメル』
第四話『サトリラレ』

  # by suganumas | 2009-07-25 11:28 | 日記・藤林くんと千歳さん

新刊が出ますー。

まる一年くらい放置しておりました菅沼です。色々ダメだ人として。
とはいえ来月あたりからバイトが一度切れるのでヒマができるから、
こっちでも何か書きたいものですな。

長らくご無沙汰しておりましたが、昨年よりの企画が形となりまして、

三月十九日・一迅社文庫より新刊が出ます。

『タイム・スコップ!』 

詳しくは版元Webで。

イラストは玉岡かがりさん。実はまりかちゃんのイラストをお願いした、
夜野さんと同じ雑誌で書いておられたこともあり、何度か作品を拝見してたり。
毎度美麗なイラストを頂くたんびに燃料投下、うんうん頷きながら気合を入れてました。

ありがたいありがたい。

原稿書いてる間、わたくしの生きる糧は玉岡さんのイラストと、
あと若干の米とバレンタインにひとりで買ったヒキガエルおよびゴリラゴリラおよびゾウガメの、
超リアルタイプ立体造形チョコレートでした。

美味かったけど……ゴリラさんの首をゴリッともぎとって口に運んだとき、
甘さと同時に何なのか奇妙なほろ苦さを感じた俺はどうなんでしょうか。
やっぱりアレか。チンパンジーも買っておくべきでしたかね?

というわけでさらに新たな原稿を……やや、その前に確定申告せねば。
去年からの領収書が軽く十うん万くらい溜まってます。主に書籍代で。

ぎゃー。(人生どんぶり勘定の嘆き)

追記
 『SFが読みたい! 2009年版』にて、
 サブジャンル別ライトノベルSF枠にストップまりかちゃんをご紹介頂きました。
 ありがたい事でございます。
 
 誰かに見てもらってると思うと、それだけで頑張れる気になる不思議。
 では、まるほやんしたー。

  # by suganumas | 2009-02-22 18:56 | 日々の雑記

コラボ企画!

夏も終わりの今日この頃、皆様いかがお過ごしでしょうか。
菅沼さんは微妙です。忙しいのか忙しくないのか。

思えば一月に文庫発売以来記事書いてませんが、いちおう生きています。
死亡説すら流れたアカオニ・トムのごとくなんとかギリギリラインで生存中です。
というわけで拙著『ストップ☆まりかちゃん!』イラストの夜野さんと、
簡単ながらコラボ企画、まりかちゃんPSP壁紙と、SSなど掲載してみます。

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ストップ☆まりかちゃん!外伝
『黒歴史とSaGaとなつやすみ。』

 夏休み、ひりつく日差しが今日の暑さを予感させる午前中。
 朝ごはんを食べ終えて、夕べの残り湯を使って洗濯機を動かし、
 居間をはじめとする共用部分の掃除機をかけた、その時だ。

「ちょっと、空いちゃったな……っ、と」

 ぼくはソファに腰を下ろすと、ふう、と低めの息を吐く。
 夏休みに入ってからというもの、どうにも手持ち無沙汰な日が続いていた。
 家事はすぐ片付くし、最初は極楽気分だった午前中のお昼寝も、何だかどんどんダメ人間になっていく気がして痛い。となると、長い一日をどうやって過ごすかが、問題で――

「……ちょっと、だけっ」

 テーブルに置いてあったシャンパンゴールドのPSPを取る。
 この小さな端末で、ゲームのみならず音楽再生、動画の再生、設定次第ではインターネットまでやれてしまう。機械が苦手なぼくはゲーム専門だけど、買ってよかった。

「高かったもんなあ……」

 しみじみ思う。昔ハマったアクションゲームの続編がこれで出ると聞いて、欲しい本も我慢し、帰り道での買い食いも自重して、お小遣いを貯めたのだ。
 その甲斐あってゲームはすごく面白いのだけど、ハマッてしまうと時間があっというまに過ぎていくのが珠に瑕。
 響き始めたファンファーレにわくわくを隠し切れず、スタートボタンを押す。ぼくの分身、可愛らしい小柄な女の子がにこりと微笑み、物々しい武装を揺らして村に現れた。

「さてっ、今日もひと狩り……!」
「なにしてんの、星ちゃん?」
「うひゃっ!?」

 突然耳の真横に気配が現れ、思わず飛び上がりそうになった。

「あー、また真昼間からエッチなゲームやってるんだ? ダメだよ星ちゃん、いくら現代科学が進歩したからって、まだ液晶画面にダイブできるほどじゃないんだから」
「えっ……エッチじゃないよっ、健全かつちょっぴりバイオレンスな、ふつうの……!」
「ほへーん」

 まるで信じてない顔で鞠歌が言った。
 この腐れ縁の天才科学者にして同居人、放浪中の父親を除けば唯一の家族である彼女は、ヒマをもてあました猫のように顔を画面に近づけていく。
 すぐ真横をすり抜けて、鞠歌のうなじが息のかかる場所に現れた。短くてふわふわした産毛が頬をくすぐり、もさっとした大量の髪が顔にのしかかってきてものすごく暑い。

「ぷわっ! 鞠歌、見えないよ……って言うか暑いからくっつかないでってば!」
「根性ないなあ。かの有名な『心頭滅却すれば火もまた涼し』って格言を思い出して、愛の力でコラえなさい。ママへの愛と勇気と欲情をパワーに代えていいんだから!」
「何か混ざっちゃ危険なものが混じってないかな、それ……って言うかその格言の人、結局火攻めで焼き殺されちゃってなかったっけ……」
「いいのよ、そんな細かいことはどうだって。で、コレなんだけど」
「え?」

 ぼくのPSPを指差し、鞠歌はきょとんと小首を傾げていた。
 その好奇心溢れる表情に、ふとした不安が過ぎってくる。

「……鞠歌、コレ、知らないの?」

 いやな予感に突き動かされ、ちらっとPSPを掲げて見せると、不満げに唇が尖る。

「なに言ってるのよ。いくらわたしだって知ってるよ」
「そ、そうだよ……ね?」

 鞠歌は正真正銘の天才だ。そのせいか、若干興味の対象が偏っている。
 でも、さすがに心配しすぎだったかな。そう思ったときだった。

「スーパーゲームボーイでしょ?」
「それはスーパーファミコンに挿して使う奴だよ!?」
「え? でも……ゲームボーイブロスの金色って、あったっけ……!?」
「せめてゲームボーイカラーくらい言おう……! アドバンスなんて言わないから……!」

 だいたい何さ、そのゲームボーイへのこだわりは。まさか、携帯ゲームは全部ゲームボーイだと思ってるんじゃ……ありえないとは言い切れないのが、ちょっと怖い。

「ちゃんと他にも知ってるもん。……PCエンジンGTとか」
「いや、それ、九十年代から進んでないから……誰も知らないよ、そんなの……」
「何よう。『カトちゃんケンちゃん』から『ドラゴンスピリット』まで遊べる携帯ゲームなんて他に無いのに。テレビだって見られるし、って大竹まことも言ってるよ!」

 あたまいたい。と言うか今時の女子高生としてその認識はマズくないだろうか。学校教育にニンテンドーDSが採用されるこの新世紀に、いまだコア構想の支持者がいるとは。

「だいたい鞠歌、赤ちゃんどころか生まれてないじゃないか。何で知ってるのさ」
「勇作さんが遺してくれたの」
「………やっぱり、元凶はアレか」

 思わず頭を抱えるぼくだった。毎度のことながら、あのスナフキン男の遺産はロクなことをしない。父さんに憧れるあまり脳内が昭和で止まっちゃった女の子の心配なんて、我が父親は絶対してないはずだから、替わってぼくが何とかしなくちゃ……。

「……もしかして他にもあるんじゃないよね、鞠歌」
「テラドライブとか、ピピンとか、プレイディアとかなら物置に置いてあったけど」
「ゲーム黒歴史秘宝館でも作るつもりだったのかな………もしかして」
「保存用もふくめて三台ずつ」
「……父さん……っ!」

 実の父親について、またひとつ知らなくていいことを知ってしまった。
 どうせ隠すならさ、もっとこうファンタジックで、話の幅が広がりそうなものを置いてけばいいのに。巨大ロボを動かせるリモコン腕時計とか、女の子が飛び出してくる謎の物体とか。闇に埋もれたゲームハードを残されたって、対処に困るだけじゃないか……!

「闇のゲームと思えばカッコいいじゃない。首からかけたらゲーム王になれそうだし」
「……ぼくを一体何者にしたいのさ、鞠歌。……それより、やってみる?」

 いちどタイトル画面に戻る。中央の液晶画面で壮麗なデモムービーが始まった携帯機を差し出すと、鞠歌はん、と軽く首を振り、ポケットの中に手を入れて。

「コレ、覚えてる?」

 手垢で黄ばんだプラスチックの外装。灰色がかった、ちょっとした辞典なみのブ厚さと、手にずっしりくる機械の重みは、ぼくにも覚えのあるものだった。

「わぁ……ちょっ、懐かしいな、これって昔、ぼくが使ってた奴?」
「うん。勇作さんから、星ちゃんが貰ったのだよ」

 ゲームボーイ。もちろん初期型。
 乾電池を詰め込んで動かす超初期型のゲーム機は、確かにぼくが子供の頃に遊んだものだ。学校の友達が遊んでいるゲームをやってみたくて、父さんに譲ってもらったけど……皆、新しいのをやっていて、結局話に入れなかったっけ。

「ポケモンの赤とかやったよ、コレで! よく見つけたね、鞠歌」
「わたし、持ってたんだよ? 星ちゃんが飽きちゃってから、ずっと」
「ずっと………?」

 これでぼくが遊んでいたのは、たぶん小学校の頃だ。五、六年は昔だと思う。ぼくらの人生の三分の一にも等しい、長い長い時間を、ずっと持ってたのか。
 鞠歌がスイッチを入れる。カチッ、と音を立てて白黒の液晶に画像が映る。

 魔界塔士
  Sa・Ga
  
 はじめから
 つづき

「………うわぁ」

 あまりにも懐かしい画面に、ぼくは言葉を失った。
 鞠歌がソファを飛び越し、隣に腰を下ろしてくる。
 ぴたりと横にくっついて、

「あのひとが伝えようとしてくれたものが、この中にあるから」

 囁いてきたとき、何かわかった気がした。
 だから、鞠歌はこれを捨てなかったのだろう。
 これにこめられた気持ちを、隠された何か、子供の頃に感じたわくわくと、どきどきと、幼く純粋な気持ちのすべてを忘れないように。
 ずしりと重いゲーム機を手にする。
 ぼくの手から離れたPSPを鞠歌が受け取り、もの珍しげにいじり始めるのを横目に見ながら、指先のカーソルを『はじめから』に合わせて選ぶ。

 ひらがなで語られるストーリー。
 ピコピコしたステレオ音声。
 白と黒のドット絵。

 懐かしさに包まれて始まったぼくらの休日は、とても楽しく過ぎていった。



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※画像はPSPの壁紙サイズになっていますので、パソコンに保存→
 PSPのメモリに入れてお使いください。
※無断加工、二次配布はおやめください。

→ 可愛らしいイラスト満載の夜野さんのHP 『Piece Of Love*』 

  # by suganumas | 2008-08-30 20:58 | 同人関係

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